美術館の企画展の公式図録だが、ものづくりに関わる人に読んでもらいたい本『作り方を作る 佐藤雅彦展公式図録』書評

はじめに

本記事は、今年発売された書籍『作り方を作る 佐藤雅彦展公式図録』を読んだ感想及びオススメポイントを紹介します。

sayusha.com

目次

前提:佐藤雅彦さんと佐藤雅彦展について

『作り方を作る 佐藤雅彦展公式図録』は書籍のタイトルの通り、横浜美術館で開催されている「佐藤雅彦展」の公式図録となっています。

佐藤雅彦さんってどんな人?

佐藤雅彦さんとはどんな人なのでしょうか?書籍『作り方を作る 佐藤雅彦展公式図録』の公式ページの著者プロフィールから引用します。

1954年静岡県生まれ。東京大学教育学部卒業後、株式会社電通に入社。グラフィックデザインから表現を始め、CMプランナーとして「ポリンキー」や「バザールでござーる」など数多くのCMを手掛ける。電通退社後はTVゲーム「I.Q」や楽曲「だんご3兄弟」などを発表し大きな反響を呼ぶ。
1999年より慶應義塾大学環境情報学部教授。2006年より東京藝術大学大学院映像研究科教授。2021年より東京藝術大学名誉教授。
『ベンチの足 考えの整頓』(暮しの手帖社)、『解きたくなる数学』(岩波書店)など著書多数。NHK教育テレビピタゴラスイッチ』、『考えるカラス』、『0655/2355』などの番組制作にも携わり、表現についての研究を続けながら多彩な活動を行っている。2013年紫綬褒章受章。

佐藤雅彦さんという名前を知らなかった人も、このプロフィールを見ただけで「あ、知ってる!」というものがあったのではないでしょうか。

佐藤雅彦展とは何か?

横浜美術館で開催されている「佐藤雅彦展 新しい×(作り方+分かり方)」では、佐藤雅彦さんが数多く手がけた作品の数々を展示しています。11月3日まで開催されている企画展となります。

yokohama.art.museum

ただし、あまりにも人気のため事前予約のチケットは平日分も含め完売しています。当日券が若干枚販売されているそうです。

『作り方を作る 佐藤雅彦展公式図録』とはどんな書籍?

『作り方を作る 佐藤雅彦展公式図録』とはどんな書籍でしょうか?とりあえずお伝えしたいことは「一般的な図録とは意味合いが違う」ということです。

本書籍のまえがきともいえる部分(p13)には、以下のように書かれています。

図録は、展覧会に於ける絵画や彫刻やその芸術家の年表といった展示物の記録です。
(中略)
それに対して、皆さんが今、手にしている図録は、かなり余分とも言える、その表現が生まれたいきさつが書かれています。そういう意味では、従来の図録から大きく外れた本になっています。しかし、私は自分を芸術家と思ったことはありません。私が作ってきたものは、アートではなく、デザインです。そのとき、その状況で、なんらかの役に立つ表現です。私は、何かの課題解決のための表現にずっと従事してきました。
それで、私の作った膨大な表現をより分かってもらうために、自分の歩んできた形跡を物語ることにしたのです。
今回の展覧会で、私がお伝えしたかったのは、作り出した表現というよりも、その表現を作り出した作り方なのです。

表現を作り出す過程の一端を、この図録から垣間見ることができます。

ものづくりに関わる人になぜ読んでもらいたいのか

この書籍は全4章の構成でできています。私なりの言葉でざっくりまとめるとこんな構成です。

  • 第1章…電通でCMを作る前までの歴史
  • 第2章…CMの作り方
  • 第3章…電通を辞めた後に、CMから飛び出して行った仕事の数々
  • 第4章…大学の教授になった後に行った研究と仕事の数々

その中でも、第2章以降の話は、ものづくりをする上で非常に参考になります*1

今まで、感覚的に進めることが通例だったものに対して、「表現方法ルール」もしくは「表現方法トーン」を見出している様を記述しています。

例えば、NECのキャンペーンCM「バザールでござーる」は、表現方法ルール1「濁音時代」と表現方法ルール2「新しい構造」を取り入れたものになっています。詳しくはp111あたりをご覧ください。

書籍では、これらの表現方法ルールを用いたCMがどのようなキッカケで生み出されたのかを追体験できる形で記述しています。これは一般の図録ではあまり表現されない素晴らしい記述です。まさに書籍タイトルになっている「作り方を作る」を見せているのです。

本書籍の楽しみ方

楽しみ方① 作り方を知るために読む

先ほど書いたように、本書籍では、コンテンツ作りの生み出された経緯や、そこからどのようにルールを定義していったかを知ることができます。

本書籍を読むことで、「無からものを作り出す」そして「作り方を作り出している」という様を知ることができるのは本当に価値があると感じました。

楽しみ方② 企画展の予習のために読む

本書籍は素晴らしいのですが、一点だけ残念な点があります。それは、コンテンツの多くがCMなどの映像コンテンツにも関わらず、書籍だと動画で楽しむことができない点です。

そこで、企画展の予習のために本書籍を読み、「これってどういうCM(動画)なんだろう?」というのを企画展で答え合わせするというのをオススメします。

おわりに

本記事では、書籍『作り方を作る 佐藤雅彦展公式図録』の見どころを少しだけ紹介しました。ものづくりの作り方を知る参考になる書籍だと思います。企画展にこれから行く人も、残念ながら企画展に行けない人も、興味を持った方はぜひ購入を検討してみてください!

*1:もちろん、第1章も楽しく読ませていただきました!